コース: 第4次産業革命(インダストリー4.0)の基礎

テクノロジーの倫理

ここ数年で映画館に行ったことがあれば、 映画が始まる前に上映中のスマートフォンの 使用に関するお知らせがあることに 気づいたはずです。 大抵は、ほかの鑑賞客に配慮して デバイスの電源を切ることを 求める内容です。 このようなことは、 ほんの数年前には予想もつきませんでした。 テクノロジーの進化につれて、 許容される社会規範も変わります。 新しいテクノロジーによって 安全性や礼儀、利便性などに 明らかな問題がもたらされ、 新しい行動様式が すぐに生まれる場合もあれば、 責任や対応があまり明確でなく、 複雑なことで解決まで 時間がかかる場合もあります。 プライバシーと AI の2つの分野が その好例です。 特に、第4次産業革命では、 これらの分野の倫理的な側面において、 私たちのリーダーシップスキルが 高い頻度で試されることになります。 ここでの倫理とはどういう意味でしょうか。 倫理とは、ものごとの善悪と、 道徳的な義務と義理を扱う規律です。 ある人や文化にとって正しいことでも、 立場が異なれば捉え方が異なります。 これは、社会によって政府や医療の役割、 死刑の受け止め方が 異なることに現れています。 投票や飲酒可能な年齢、薬物使用や 社会的セーフティネットなどのあり方は、 伝統、文化、宗教、政治、経済といった 複雑な誘因によって決まります。 しかしだからこそ、そこに関心を 寄せる必要があります。 倫理は本来、長期間にわたって 進化するものですが、影響、範囲、速度を 増大させることで直面する課題は、 多くの場合、猶予がないことを意味します。 第4次産業革命では、プライバシーと AI に関する倫理的ジレンマが 頻繁に生じるでしょう。 プライバシーという言葉を聞いただけで、 それに対する自分の見解が 思い浮かぶのではないでしょうか。 21 世紀の概念では、 プライバシーは重要な議論の対象です。 ポストプライバシーの世界は すでに始まっているという主張もあり、 誰が私たちのデータを所有し、 それを使って何ができるのかも不明確です。 データの権利章典が 必要ではないでしょうか。 これまでも、プライバシーは 常に難しいテーマでしたが、 第3次産業革命以降、 さらに複雑化しています。 情報をデジタル形式で簡単に保存 および共有できることには、 大きなリターンとリスクがあります。 21 世紀の都市社会で暮らすことは、 プライバシーの多くの部分を 手放すことを意味します。 実際、データ共有が必要な場面が 多々あります。 あなたのスマートフォンは、 あなたの位置情報を常に 配信している可能性があります。 クレジットカードの使用履歴からは、 あなたがいつ、何をしたのか、 あなたは何が好きで何が嫌いなのか、 といった多くの情報を得られます。 私たちの行動は街中の防犯カメラに 記録されています。 調査によると、ロンドン市民は 1日に 300 回もカメラに 映されているようです。 次に、AI の倫理についてです。 少なくともある程度は、 AI が独立して実行することと、 人間に判断を任せなければならないことを 検討する必要があります。 この問いに対する答えは 常に変化しています。 何を快適に感じるか。 最適な効率を提��するものは何か。 私たちの倫理的責任は何か。 もちろん、これは複雑です。 このトピックを持ち帰って考えるために、 1つ例を見てみましょう。 自動運転車における AI の役割についてです。 レベル5の自動運転車が乗員を乗せて 目的地に向かって走行しているとします。 車両は完全に制御されているため、 乗員は運転から解放されて 移動時間を自由に過ごしています。 この車両は AI を搭載しており、主に、 ほかのすべての自動運転車から取得した 数百万件もの過去の走行データを 学習することで 定型化した判断を実行しています。 しかし突然、未知の危機的状況に 出くわしました。 3人組の歩行者が 道路に飛び出してきました。 衝突を回避する必要がありますが、 そうすると道路の反対側にいる 無関係な人を1人巻き込むことになります。 ほかの選択肢がなかった場合、 無関係な人1人を犠牲にすることは、 飛び出してきた3人組を 死亡させることに対して、 倫理的に正しいでしょうか。 AI はこの決定を下すための倫理基準を どのように導き出せばよいでしょう。 さらに難しくしましょう。 同じ状況で、車両のゆく先に3人、 道路の反対側にも3人いる場合、 自動車は乗員を犠牲にして 人のいない方向に衝突するべきでしょうか。 ゆく手に1人、道路の反対側に1人、 乗員が1人の場合はどうでしょうか。 誰を犠牲にするべきでしょうか。 もしこれらのジレンマの解決策に 悩むようであれば、 あなたは今まさに第4次産業革命の 倫理的課題に気づいたと言えます。 今後抱えるであろうジレンマのすべてが 生死に関わるわけではありませんが、 不快な判断や未知の判断を 必ず伴うでしょう。 そこには、プライバシー、 責任、文化、権利などが含まれます。 これらの問題は、私たち全員や 私たちの組織全体に影響を与えるでしょう。

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