コース: AI 入門

強いAIと弱いAI

コース: AI 入門

強いAIと弱いAI

システムが知性を持つとは、どんな 状態なのでしょうか。 前の例で挙げた記号の一致だけなら 知的に見えるだけで、 覚えがいいオウムと変わりありません。 哲学者のジョン・サールは、 AI にも強い AI と弱い AI の 2種類があると分析しました。 現実は、知性を持ったシステムの 登場からほど遠いというのです。 強い AI とは、普通の人間に想定される あらゆる行動を示すことができる AI を指しています。 SF 小説や映画に出てくる AI のように、 豊かな感情やユーモアの センスがあるだけでなく、 独自の使命感さえ持っています。 SF 作品の AI は、怯えて見せたり 機知に富んだ活躍を繰り広げたりする、 人間的な存在です。 これに対する弱い AI の典型例は、 Apple の Siri のような パーソナルアシスタントです。 マイクから入力された 音声をテキストにしたり、 端末上の写真を整理したりといった、 ごく狭い範囲にタスクを限定した AI です。 弱い AI の探究はまだ始まったばかりだと、 多くの専門家が 見ています。 Siri の場合を考えてみてください。 質問をすると、 その音声を受け取って、 まずコンピューターが 認識できる形に変換します。 その上で、データベースにある 応答と対応させる作業をします。 現在の研究の主力は、 ほとんどが弱い AI の開発や強化に関わるもので、 強い AI は、 いまだに SF の域を出ていません。 1970 年代から 80 年代は、 記号システムに基づく弱い AI が開発され、 エキスパートシステムと呼ばれました。 専門家の監修で複雑な問題解決の 筋道をリスト化するので、 大量に蓄えれば知能のようにも 見えてきます。 ただこれも、専門知をオウムのように 返しているだけです。 エキスパートシステムは、 主に医療分野で利用されていました。 看護師が患者の症状を入力すると、 例えば咳がある患者なら、 熱の有無を尋ねます。 咳と熱が両方あるなら、 脱水症状の有無を尋ねます。 咳と熱と脱水症状が揃った場合、 システムは気管支の炎症を 確認するよう指示します。 患者が見ると、知性を持った コンピューターのようですが、 専門家が用意したパターンから 一致するものを出しているだけなのです。 これは中国語の部屋にあった 手順書と同じです。 エキスパートシステムも、結局は ほかの記号システムと同じ問題に 突き当たります。 用意すべきパターンが 組み合わせ爆発を起こして、 システムの手に負えなくなるのです。 現実の診断には、 ほんとうにさまざまな質問が使われます。 それでも、AI の重要な出発点であり、 今も現役で 使われている記号システムは、研究者から 「古きよき人工知能」を略した GOFAI(ゴーファイ)とも呼ばれています。

目次